HDMI分配器の導入を検討する際、多くの方がHDMI分配器の遅延について心配されます。特にFPSや格闘ゲームなど、わずかな遅れも許されないゲームでの遅延は、勝敗に直結する深刻な問題です。
インターネットで情報を探しても、HDMI分配器は遅延なしと説明されている場合もあれば、遅延の検証結果を示して問題ないとする意見、あるいは遅延があるためおすすめしないという情報まで様々です。
また、製品を探し始めると、HDMI切替器やHDMIセレクターといった似た製品との違いが分からなくなったり、1入力2出力や2出力といった基本的な機能は理解できても、デュアルディスプレイ環境でPCの拡張モード対応のおすすめ製品が見つからず、失敗や後悔につながるケースも少なくありません。
この記事では、HDMI分配器における遅延の真実、切替器との根本的な違い、そしてゲーム用途で安心して使用できる製品の選び方について、分かりやすく解説します。
- HDMI分配器で遅延が発生する仕組み
- 分配器と切替器(セレクター)の根本的な違い
- ゲームプレイにおける遅延の影響度
- 遅延を避けるための製品選びの注意点
HDMI分配器の遅延は発生するのか
この章で解説する項目
- HDMI切替器とは?分配器との違い
- HDMIセレクター 遅延を検証
- 分配器の仕組みと遅延の原理
- 1入力2出力の基本機能とは
- 2出力時の電力不足と注意点
HDMI切替器とは?分配器との違い

HDMI分配器とHDMI切替器(セレクター)は、名前が似ていますが役割が全く異なる機器です。
HDMI切替器(セレクター)は、複数の入力機器(例えば、ゲーム機、レコーダー、PCなど)からの信号を、1台のモニターやテレビに接続し、見たい機器の映像を手動または自動で「切り替える」ために使用します。テレビのHDMIポートが足りない場合に、ケーブルの抜き差しをせずに済ませるための機器と言えます。
切替器といえばこちらのエレコム製品がベストセラーになっています。
一方、HDMI分配器(スプリッター)は、1台の入力機器(例えば、PC)からの信号を、複数のモニターやプロジェクターに「同時に同じ映像を映し出す」ために使用します。これは、ケーブルの抜き差しでは代用できない、分配器固有の機能です。
実際に、両者を混同して質問されているケースも見受けられますが、目的が根本的に異なりますので、まずはどちらの機能が必要なのかを明確にすることが大切です。
なお、製品によっては「2WAYタイプ」として、入力と出力を双方向に切り替えられることを謳うものもありますが、これらは切替器の一種であり、1つの映像を2つのモニターに「同時」に出力(分配)することはできません。
両者の違いをまとめると、以下の表のようになります。
機能 | HDMI分配器 (スプリッター) | HDMI切替器 (セレクター) |
目的 | 1つの映像を複数画面に同時出力 | 複数の映像を1つの画面で切り替え |
信号の流れ | 1入力 → 複数出力 | 複数入力 → 1出力 |
主な用途 | ゲーム実況、プレゼン、店頭デモ | ホームシアター、会議室 |
遅延 | 回路通過による微細な遅延あり | 原理上、遅延はほぼ発生しない |
遅延以外の問題として、そもそも映らない場合はコチラの記事を参考にしてください。

HDMIセレクター 遅延を検証
前述の通り、HDMI切替器(セレクター)は、複数の入力端子から1つを選んで出力端子に接続先を切り替えるだけの単純な構造です。
このため、HDMIセレクターが遅延を引き起こすかどうかの検証では、遅延は発生しない、または体感できるレベルの遅延は確認できない、という結果が一般的です。
切替器は、キャプチャーボードのように映像信号をデジタル処理したり、加工したりするわけではないため、信号が機器を通過することによる遅延は、ほぼ無視できるレベルと考えられます。安価な製品であっても、体感できるほどの遅延を経験したという報告は少ないようです。
ただし、注意点もあります。セレクター自体が遅延の原因になることは稀ですが、使用するHDMIケーブルの品質によっては、セレクターを間に挟むことで信号が減衰し、うまく認識しない(映らない)といった問題が発生することはあります。
また、PS5やゲーミングPCで240Hzのような高いリフレッシュレートの映像を出力したい場合、モニターが240Hzに対応していても、間にあるHDMIセレクターが60Hzまでしか対応していない製品であれば、映像は60Hzに制限されてしまいます。
分配器の仕組みと遅延の原理

HDMI分配器は、切替器とは異なり、入力された1つの映像信号を複製し、複数の出力ポートへ同時に送り出す処理を行います。
この「信号を複製・増幅する」という処理のために、分配器の内部には電子回路が搭載されています。信号がこの回路を通過する以上、たとえ抵抗1本であっても、物理的にわずかな処理時間(遅延)が必ず発生します。
したがって、「遅延が完全にゼロ」のHDMI分配器は理論上存在しません。
安価な製品になればなるほど、内部の回路やチップの性能が十分でなく、遅延が長くなる傾向があるとも言われています。しかし、多くの安価な製品では、どの程度の遅延が発生するのかという仕様が明記されていないため、購入前に遅延の程度を知ることは困難です。
高性能な製品では、この遅延を人間が感知できないレベル(例えば1フレーム未満)に抑え込んでいるものもありますが、そうした製品は一般的に価格が高くなる傾向にあります。
1入力2出力の基本機能とは
1入力2出力は、HDMI分配器の最も基本的で一般的な機能です。これは、1台の機器(入力)から送られてくる映像と音声の信号を、2台の機器(出力)へ同時に分配することを意味します。
この機能の主な用途としては、以下のようなケースが挙げられます。
ゲーム実況配信
ゲーム機(PS4、PS5、Switchなど)からの映像を、遅延なくプレイするための「プレイ用モニター」と、録画・配信を行うための「PC(キャプチャーボード)」へ同時に出力します。これにより、配信者は遅延のない画面で快適にプレイしつつ、PC側で録画や配信を行うことができます。
プレゼンテーションや会議
発表者のPC画面を、手元で確認するための「モニター」と、聴衆に見せるための「大型プロジェクター」や「ディスプレイ」に同時に映し出します。
重要なのは、1入力2出力の分配器は、基本的に「同じ映像」を2つの画面に複製(ミラーリング)する機能であるという点です。
2出力時の電力不足と注意点
HDMI分配器を使用する際、特に注意が必要なのが「電力不足」の問題です。
HDMIケーブルは、映像や音声の信号だけでなく、機器を動作させるための微弱な電力も同時に送っています。分配器は、入力側から受け取った電力を利用して内部回路を動かし、さらに信号を増幅して2つの出力先へ送ります。
このとき、入力機器(PCやゲーム機)からの給電だけでは電力が足りず、映像が途切れたり、砂嵐のようなノイズが入ったり、最悪の場合は全く映らなくなったりすることがあります。
電源供給のタイプ
分配器の電源供給方法には、主に以下の3種類があります。
- 電源不要タイプ: 入力機器からの電力(バスパワー)のみで動作します。
- バスパワータイプ: PCのUSBポートなどから追加で給電できるものです。
- セルフパワータイプ: 専用のACアダプターをコンセントに接続して給電します。
PS4やNintendo Switchなどの比較的電力量が小さい機器でも、安定した動作を求めるならば、ACアダプターで外部からしっかりと給電できる「セルフパワー」タイプの分配器を選ぶことが推奨されます。特にPS5や高性能なゲーミングPCなど、消費電力が大きい機器に接続する場合は、セルフパワーがほぼ必須と考えてよいでしょう。
HDCPに関する注意点
PS4やPS5の映像が分配器を通して映らない場合、電力不足ではなく「HDCP」という著作権保護技術が原因の場合もあります。PS4/PS5は初期設定でHDCPが有効になっており、これが原因で分配器が映像の出力をブロックすることがあります。
この場合、一度ゲーム機とモニターを直接接続した状態で、システム設定から「HDCPを有効にする」のチェックを外すことで解決する可能性があります。
用途別にみるHDMI分配器の遅延
この章で解説する項目
- ゲーム 遅延はプレイに影響するか
- リフレッシュレート(Hz)への影響
- デュアルディスプレイでの活用法
- 拡張モード対応 おすすめ製品の誤解
- HDMI分配器 遅延なしモデルの選び方
- HDMI分配器の遅延を理解する
ゲーム 遅延はプレイに影響するか

HDMI分配器の導入で最も懸念される、ゲームプレイへの遅延の影響についてです。
多くのゲーマーが心配するように、もし分配器によって数フレーム(1フレーム=約0.016秒)単位の遅延が発生すれば、FPSや格闘ゲーム、音楽ゲームなどでは致命的です。
しかし、複数の検証結果によれば、一般的なHDMI分配器(またはキャプチャーボードに内蔵されたパススルー機能=内蔵分配器)を間に挟んだ場合でも、人間が体感できるレベルの遅延(ラグ)は「無いと言っていいレベル」であると報告されています。
例えば、PCから2台のモニターに分配し、片方だけ分配器を経由させて遅延測定器で比較した場合でも、測定結果に差が出なかった(=遅延が測定限界値である1ms未満)という検証もあります。
もちろん、前述の通り、分配器の仕組み上、ごくわずかな(例えば1ms未満の)遅延は物理的に発生しています。しかし、これがゲームのプレイに影響を与えるほどの大きさかというと、多くのまともな製品においては、その心配は低いと考えられます。
ただし、これは分配器が単純な信号の複製のみを行っている場合です。製品によっては、解像度を変換する「スケーリング機能」などが搭載されているものもあり、そうした余計な映像処理が入る場合は、遅延が大きくなる可能性はあります。
リフレッシュレート(Hz)への影響
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HDMI分配器は、出力する映像のリフレッシュレート(Hz)にも影響を与えます。
分配器には、それぞれ対応可能な最大の解像度とリフレッシュレートの仕様が定められています。例えば「4K/60Hz対応」や「1080p/120Hz対応」などです。
ここで注意が必要なのは、分配器が2台のモニターに映像を出力する際、基本的には「接続されているモニターのうち、最も低い性能(解像度やリフレッシュレート)に合わせて」映像信号が出力される点です。
例えば、ゲーミングPC(165Hz出力)から、ゲーミングモニター(165Hz対応)とリビングのテレビ(60Hz対応)にHDMI分配器で同時出力したとします。この場合、分配器は両方に同じ信号を送るため、テレビの性能に合わせて、ゲーミングモニター側も60Hzでしか表示されなくなってしまいます。
165Hzと60Hzといった異なるリフレッシュレートで同時に出力することは、一般的な分配器ではできません。これを実現するには、出力先のモニターが両方とも165Hz(またはそれ以上)に対応している必要があります。
なお、解像度とリフレッシュレートの組み合わせは、伝送されるデータ量(帯域幅)によって決まります。参考として、必要な帯域幅の目安を以下に示します。
解像度/リフレッシュレート | 規格目安 (必要帯域幅目安) |
1080p (フルHD) / 60Hz | HDMI 1.4 (約5Gbps) |
1080p (フルHD) / 120Hz | HDMI 1.4 (約8.9Gbps) |
4K / 30Hz | HDMI 1.4 (約8.9Gbps) |
4K / 60Hz (SDR) | HDMI 2.0 (約15Gbps) |
4K / 120Hz (HDR) | HDMI 2.1 (40Gbps以上) |
デュアルディスプレイでの活用法

PC環境においてデュアルディスプレイ(マルチモニター)を構築する際、HDMI分配器は特定の目的で活用されます。
その目的とは、PCの画面を「複製(ミラーリング)」することです。
PCのディスプレイ設定には、2台のモニターに別々のデスクトップ領域を表示する「拡張」モードと、2台に全く同じ画面を表示する「複製」モードがあります。HDMI分配器は、このうち「複製」モードを実現するために使用されます。
例えば、店頭でのデモンストレーションとして、1台のPCから複数のモニターに同じプロモーション映像を流し続ける場合や、講義室などで発表者の手元のPC画面と、学生向けの大型プロジェクターの画面を完全に同期させたい場合などに利用されます。
この使い方の場合、PCのOS側からは、接続されているモニターは(分配器の先に何台繋がっていても)1台として認識されます。
拡張モード対応 おすすめ製品の誤解

デュアルディスプレイに関連して、非常に多い誤解が「HDMI分配器を使えば、PCのデスクトップを拡張できる」というものです。
結論から言うと、一般的なHDMI分配器(スプリッター)は、PCの「拡張モード」には対応していません。
前述の通り、分配器は1つの映像信号を複製する(ミラーリングする)機器です。「拡張」モードは、PCのグラフィック機能(GPU)が2つの異なる映像信号を個別に生成し、それぞれのモニターに別々の画面を表示する機能です。分配器には、1つの信号を2つの異なる信号に分離・生成するような機能はありません。
もし、インターネット上で「拡張モード対応」と記載された分配器のような製品があったとしても、それはHDMI分配器ではなく、USBポートに接続してグラフィック機能を追加する「USBディスプレイアダプタ」や、複数の機能をまとめた「ドッキングステーション」である可能性が高いです。
PCのHDMIポートが1つしかない状態で、モニターを拡張モードで2台に増やしたい場合は、HDMI分配器ではなく、USB接続のグラフィックアダプタなどを探す必要があります。
拡張モードについてはこちらの記事で紹介しています。

HDMI分配器 遅延なしモデルの選び方

これまで見てきたように、「遅延なし(ゼロ)」のHDMI分配器は存在しません。したがって、製品を選ぶ際は「遅延が体感できない(無視できる)レベル」の高品質な製品を選ぶことが鍵となります。
遅延による失敗や後悔を避けるためには、以下のポイントに注意して選ぶことをおすすめします。
セルフパワー(AC給電)方式を選ぶ
最も重要なポイントの一つです。入力機器からの給電(バスパワー)のみに頼る製品は、接続する機器やケーブル長によって電力不足に陥りやすく、映像が途切れる、ノイズが入る、認識しないといったトラブルの原因になります。専用のACアダプターでコンセントから給電するセルフパワー方式は、動作が非常に安定します。
接続機器の最大性能に対応した仕様か確認する
使用したい機器の性能を最大限に活かすため、分配器の対応仕様を確認します。
例えば、PS5やゲーミングPCであれば「4K/60Hz」や「1080p/120Hz」に、最低でも対応している必要があります。
HDR(ハイダイナミックレンジ)に対応しているか
PS5のゲームや4K Ultra HD Blu-rayなど、HDRの美しい映像を楽しみたい場合は、分配器、モニター、ケーブルの全てがHDRに対応している必要があります。4K対応であってもHDRは非対応という製品もあるため、仕様欄の確認が大切です。
信頼できるメーカーやレビューを参考にする
安価すぎる製品の中には、仕様通りの性能が出なかったり、遅延が体感できるレベルで発生したりする粗悪なものが含まれる可能性もあります。国内メーカーの製品や、ゲーム用途での使用レビューが多い製品を選ぶと安心材料になります。
HDMI分配器の遅延を理解する
この記事では、HDMI分配器の遅延に関する様々な疑問について解説しました。最後に、重要なポイントをまとめます。
- HDMI分配器は1つの映像を複数に同時出力する機器
- HDMI切替器(セレクター)は複数の映像を1つに切り替える機器
- 切替器は信号処理をしないため遅延はほぼ発生しない
- 分配器は信号を複製する回路を通るため微細な遅延が必ず発生する
- 一般的な分配器の遅延は1ms未満など体感できないレベル
- ゲーム用途でも分配器の遅延は「無いと言っていいレベル」
- 安価すぎる製品や特殊な処理が入る製品は遅延が大きくなる可能性
- 分配器は電力不足で動作が不安定になりやすい
- 安定動作のためAC給電のセルフパワー方式が強く推奨される
- PS4/PS5が映らない原因がHDCPの場合もある
- 分配器は接続先で最も低いリフレッシュレートに合わせられる
- 165Hzと60Hzのモニターへ異なるHzでの同時出力は不可
- 分配器はデュアルディスプレイの「複製(ミラーリング)」に使う
- 分配器はPCの「拡張モード」には対応していない
- HDMI分配器の遅延を避けるには仕様確認と電源タイプが鍵